何か変わるかも ― わたしがヨガを始めた日

わたしに還るまで

オーストラリアでの留学を終えて地元に帰ってきたのは、コロナがやってくる少し前のことでした。

地元の中小企業で、経理の仕事をすることになりました。やったこともない仕訳の入力、算数も嫌いなのに数字とにらめっこする毎日。正直、事務仕事なんてやりたいと思ったことはなくて、ただただ疲れていました。

帰国したばかりで、知り合いも少なくて。気軽に会える友達も、居場所と呼べるコミュニティも、まだないころ。

そのうえ、長く付き合った大好きな人とも、別れたばかりでした。ちょうど30歳を迎えるころ。結婚を考えてもおかしくない年齢だっただけに、その別れは、よけいに重くのしかかってきて。その気持ちをずっと引きずったまま、「何か楽しいこと、ないかな」と、ただ毎日をやり過ごしていたんです。

いま思えば、あの頃のわたしは、自分のことを理解せず、後回しにしていたのかもしれません。

そんなある日、ふと「何か新しいことを始めたい」という気持ちが芽生えました。

前からずっと気になっていたのが、ヨガでした。経験も知識もまったくなかったけれど、「やってみようかな」と思い立って、近くに通えるところがないか検索してみたんです。そうしたら、すぐ近くにスタジオがあって。

ヨガなんて一度もやったことがなかったし、体も硬いし、不安もありました。それでも——思い切って、行ってみることにしたんです。

初めてのレッスンで、「タダーサナ(山のポーズ)」をしました。

ただまっすぐ立つだけのポーズです。なのに——やってみると、体の奥のほうの筋肉をしっかり使っているのがわかって、びっくりしました。

ヨガって、気持ちよく体を伸ばすだけのものだと思っていたんです。だから「ただ立っているだけ」でこんなに感覚があるなんて、本当に衝撃でした。

子どもの頃からスポーツをたくさんしてきて、体を動かすのが大好きだったわたしにとって、「動かなくても、こんなに体を感じられるんだ」という発見は、新鮮そのもの。一気にヨガに惹き込まれていきました。

それから、呼吸に意識を向けるのも、生まれて初めての経験でした。それまで無意識にしていたはずの呼吸が、まったく違うものに感じられて。自分の呼吸に気づきながら過ごす時間の心地よさが、たまらなくて。呼吸に意識を向けていると、なんだか気持ちが少しずつ落ち着いていくのも、覚えています。「呼吸って、こんなに大切だったんだ」と、体で感じた瞬間でした。

そういえば、初めてヨガの先生に会ったとき、「あ、この人についていったら、何か変わるかも」と、直感的に思ったのを覚えています。理由はうまく説明できないけれど、なんだか、そんな感じがしたんです。

その先生に「ヨガインストラクター、向いてそう」と言ってもらえて、RYT200というインストラクター養成講座を勧められました。そして——その日のうちに、オンラインの養成講座を申し込んでいたんです。

やると決めたら、とにかくやってみるタイプ。体の硬さも、いろんな不安も、ひとまず脇に置いて。

先生は、ヨガ以外にも山登りや、仲間との集まりにも誘ってくれました。できるだけ参加してみると、コミュニティがどんどん広がって、楽しい世界が増えていって。

帰国したばかりで、知り合いも居場所もなかったわたしの毎日が、少しずつ、にぎやかであたたかいものに変わっていきました。

あんなに「何か楽しいことないかな」とやり過ごしていた毎日が、いつのまにか、夢中になれるものと、あたたかい仲間であふれていたんです。ヨガは、体だけじゃなく、わたしの世界そのものを、少しずつ変えてくれました。

——でも、変化はこれだけでは終わりませんでした。次にわたしを待っていたのは、「お腹」と「感情」をめぐる、思いがけない出会いだったんです。

(つづく)

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